はじめての全身麻酔
5月某日、ついに手術することが決まった。決まってしまった。
大した病気では無いけど、今後のために手術を行う。
自分への投資だ、全身麻酔を添えて
手術にあたり、
事前検査や当日入院が必要となり仕事休み連発するので係長にその旨を伝えたところ、
「いくらでも休め、体が一番大事、仕事のことは任せろ。」
アンミカも驚くホワイト発言で背中を押してくれた。
ありがとうございます。
自分もこういう言葉かけれる人になろうと誓った。
「あっ、聞いた話だけど、たまに麻酔から目覚めないこともあるらしいけ、気いつけて。」
自分に立てた誓いを秒で破った。
係長よ、気は確かか。
部下の不安をアイスピックでほじくり回すようなことがよく言えたなと思う。
てか気を付けるって何にだ。ブラックコーヒーでも飲んでおけばいいのか。
とにかく職場の休みをキープしたので、一抹の不安とともに病院へ向かう。
手術するには
その概ね1週間前に病院へ行き、事前検査を受けたり、麻酔等に関して医者からのOKをもらう必要があるらしい。
面倒だ。
一通りの検査をし、同意書みたいなものも書かされた。
「万が一ミスったらごめんね!それでもおっけ?」
結論:良くはない。
良くはないけど書かないと前に進めない。
今流行りの同意書マウントを取られてでも俺は進む。
自分に何かあったらこの同意書を親族等に見せつけられるのかと思うと署名も特別丁寧に書き上げた。事前検査は終わった。
手術まであと1週間。
その間に気を付けることは圧倒的体調管理だ。
万が一にでもコロナになろうもんなら手術自体がなくなってしまうので、他人との接触は極力控える。
そして、迎えた当日。
不安で8時間しか眠れなかった。
朝早くから病院で検査し、昼過ぎに手術、術後1泊入院し翌日の夕方には退院。
そんなスケジュールを組まれている。
当日は朝から絶食。
なんやかんやの検査を受け、手術までの間は病室で待機。
待ち時間はとても長く感じた。
本やスマホを見ていたが頭へ入ってこない。
狭い窓から見える空がきれいだった。
どのくらい待っていたかは覚えてない。
その時が来たようだ、看護師が俺を呼んでいた。
手術フロアに移動した。独特の雰囲気と暗さを感じる。
ワンフロアには手術室が3室くらいあるようで、そのうち1部屋は手術中のランプが灯っていた。
手術部屋に足を踏み入れる。思ったより広かった。
着くや否や、いそいそと俺を手術台に寝かせる看護師たち。
とにかく手術台が細い。
シングルベッドの3分の1くらいでろくに寝返りも打てやしない。寝返るようなシーンはないだろうけど、だとしても狭い。
もしや手術台の相場は細目と決まっているのだろうか。初めてなので分からない。
そして、あれよあれよという間に慣れた手つきで手足にわけのわからん器具が取り付けられる。
1人の看護師が「まずは針だけですよ~」というよくわからない言葉を発しながら腕に針をぶっさす。
針太っ!献血の時よりだいぶ太いぞこれ。
ちなみに自分は注射の瞬間を凝視するタイプ。刺さる瞬間は見逃せない。
腕と針がリンクしたことにより、いつでも麻酔を流し込める準備は整ったみたいだ。
ふと、気づいたら4、5人のにぎやかな看護師に囲まれていた。
なんか楽しそうに話している。たぶんプライベートな話。俺まだ麻酔入ってないのだが?
肝心の麻酔はまだなのか。
焦らしプレイに耐えきれずに聞いた。
「麻酔はまだですか。」
「まだですよ~するときいいますからね~。」
「麻酔したら10秒くらいで意識がなくなりますからね~。」
口調とは裏腹に麻酔の始まりが意識の終わりだとはっきり告げてきた。
いいだろう。このあたりで緊張がほぐれ、頭がクリアになってきた。
なるほど、10秒で意識が飛ぶのか。
ならば自分は意識を保ちに保ち看護師さんたちに意志の強さを見せつけてやろうじゃないか。
どこかに忘れてきた落ち着きを取り戻していた。
刹那、
正常に戻ったはずの脳内がどろり溶けてく感覚に襲われた。
脳の感覚はすぐさま視界に反映された。
世界が、ぐにゃり…。
「あの、なんかちょっと変な感じが…。」
「あ~麻酔きてますね~。」
きてますね~じゃねーよ!マリックみたいなこと言うな。
麻酔入るとき言うって約束したじゃん、えっこれもう駄目なやつ?ああ、カイジみたいになってきたわ、ダメなやつだわ、わかるわこれ、意識保てないわ、てか先生きてなくない?ちゃんとくるの?
おそらくだが10秒ほどで意識が消えたのではないだろうか。
意気込み虚しく、麻酔の前では何も抗えなかった。
そして、目が覚めると手術は終わっていた。
しっかり意識は飛んだままで術中覚醒も無ければ目覚めないこともなかった。
よかった。
無事終わりましたからね~。
担架で運ばれて病室へ。
初めての手術、全身麻酔が終わった。
今回の反省としては、やはり麻酔に入るタイミングだ。
看護師さんの高等テクニックにより、いつから麻酔が注入されたかを煙に包まれた。
次があれば、麻酔導入から果たして自分が何秒まで意識を保てるか、正確にカウントしたいと思う。
ちなみに
手術よりその後の方が大変だった。
麻酔が切れてくると、手術箇所の痛みがじんわりと始まり、
痛みはボレロのようにだんだんと盛り上がっていき、その晩にピークを迎えた。
痛み止めを飲んでも腹に響く痛み。
動けない、トイレもいけない。しかし催す。
ベッド横に置かれていた、し尿瓶。
痛みに耐えながら、初めて瓶に小便した。
そのときに気づいたんだけど、
下腹部の縦横3cm程度の正方形、不毛地帯ができていた。
やるなら全部持って行ってくれ、恥ずかしい。